ピロリ菌のゲノム解析から見た アジアにおける人類集団の近縁関係
斎藤成也 敎授(東京大, 国立遺伝学研究所 集団遺伝研究室 )
日本列島人(ヤポネシア人)の起源と成立については、これまでヒトのミトコンドリアDNA、Y染色体DNA、そして常染色体ゲノム全体が調べられてきた。一方で、ヒトに随伴して移動するマウスのDNA研究も進められている。胃の中に生息するピロリ菌は外界では増殖できず、宿主特異性があるため媒介生物もいない。母から子に垂直感染するピロリ菌ゲノムの系統樹はヒトの移動を反映している。従来ピロリ菌は、ゲノム中のいくつかの遺伝子塩基配 列の情報を用いて、7系統に分類されてきた。日本本州の菌は中国・韓国と同じhspEAsia系統であり、この系統が持つ毒性の高い病原遺伝子(東アジア型CagA)が胃がんの発症率を高めていると言われてきた。ところが大分大学と琉球大学による研究で、沖縄には系統も病原性も異なる2つの系統(hspOkinawaとhpRyukyu)があることがわかった。前者は西~中央アジア株と近縁性があり、後者は東アジアと北アジアの中間的な性質を持ってい た。これらの研究は私の研究室の鈴木留美子特任准教授が中心になっておこなわれた。